ライターズノート(短編小説Ⅳ)

★「若き小説家の肖像」

 この小説の「僕」は、若い日の自分をモデルにしています。

 まだ娘も息子も小さくて、地域の保育所に通っていた頃の話です。その頃、まだ僕は、納得のいく小説なんて一つも書き上げていませんでした。

書いても書いても、自分でも満足できるものが書けず、もう小説なんて捨ててしまおうと、そんなことを考えていました。

 中学校の教員としての道筋は少しずつ見えてきてはいましたが、それだけでは、どうしても満足できませんでした。やっぱり小説が書きたかった。

 そんな頃の葛藤を書いてみました。

 その後、僕が書いた短編小説を町村文芸誌に投稿したところ、面白いと言ってくれる人が現れて、少しだけ自信を持つことができました。

 それで、少し長いものを書いてみようと考えました。子どもたちが寝るまでは子育てに専念し、夜の9時くらいからワープロに向かってパチパチとキーを打つという生活でした。

 自信はなかったけれど、自分を励ましながらなんとか書き進めていました。 

★「三股パラダイス」

 僕の両親は、帯広市の中心街で洋品店を経営してました。

 こじんまりとした小さなお店だったので、父親は車に商品を積み込んで、郊外の学校を歩いて衣類を販売していました。僕がまだ小さな頃のことで、自動車が普及する前の話です。

 僕は、時々父親の運転する車に乗せてもらって、校外の学校を訪れたりしました。細かな記憶は残ってないんだけど、そうやって外販をして歩いていた時のことを小説にしたいと思って筆を執ってみました。

 「三股」というのは、十勝の北部、上士幌町内の最も北に位置する小さな集落です。以前は、森林業で栄えた部落ですが、今は、喫茶店が一軒あるだけで、他に何もありません。原野が広がっているだけです。

 一度だけ、両親と3人で、そこを訪れたことがあります。曲がりくねった山道を1時間以上もかけて走ったせいで、僕は、すっかり車に酔ってしまいました。

 集落の東側には、双子の山があって、地元の人は「おっぱい山」と呼んでいました。丸く盛り上がった曲線といい、頂上のピンととんがった形といい、ほんとにオッパイの形でした。(笑)

 そこに出かけた時のことを小説にしたのですが、書き始めた途端に、完全に想像の世界に没入してしまいました。風景は、当時の様子を写し取っていますが、登場人物は、全て僕のイメージです。

 ちなみに、当時、学生服を着た小学生はいなかったそうです。三股出身者の談話だから本当でしょう。

 ウソを書いて、ごめんなさいね(笑)でも、そんなイメージがあるんだよなあ。