ライターズノート(短編小説Ⅲ)

★「復讐」

 この作品も、「幸せな家庭」と同様の発想からうまれてきました。つまり、「若い男と出奔した妻が、数年後に癌の治療をしている状態で再会したら、夫は、どのようなことを考え、どう行動するのだろうか」という仮定がありました。

 そこから物語をスタートさせていきました。

 これも、決して楽しく明るい物語ではありません。普段は人間の裏側の潜んでいる、怨念だとか復讐心だとかいった部分に焦点を絞ってみました。

 こうやって、人間の裏側をあぶり出していけないかと、そんなことを考えながら書いた作品です。

 でも、こういった小説は、あんまり読み返したいとは思いませんね(笑)

 個人的には、もっと心の温まる小説が好きです。

 ただし、作家という立場で考えると、そういう生ぬるい小説ばかり書いているのも何かなあ・・・という感じです。



★「未来を覗く女」

 未来が見えるといった超能力を持っている人は幸せになれるのだろうか?という仮定を立てて、書き始めた小説です。

 超能力者の不幸というのは、SF小説やSFマンガあたりでは定番のテーマです。石ノ森章太郎の「ミュータント・サブ」とか、スティーヴン・キングの「ファイアー・スターター」あたりも、超能力者の不幸を扱った物語です。

 それで、今回は未来が見える女性の不幸というものを小説にしてみました。ちょっとしたどんでん返しも用意して、エンターテイメントに凝ってみました。



★「幸せな家庭」

 僕は、結婚して以降、まあま落ち着いて安定した家庭生活を送らせてもらってます。まあ、腸閉塞で死にかけたり、仕事で行き詰まったりとか、小説が書けなくなったりとか、細々としたトラブルはありましたが、決定的に家庭が崩壊してしまうような出来事には遭遇してきませんでした。

 でも、だからといって、今後そういった最悪のトラブルに襲われないとは言い切れません。(それは運命を司る神様の手中にあることです)

 仮に、そういった不幸な出来事が発生し、それが発火点として家庭が崩壊していくとしたら、それはどんな経過を辿るんだろうか、と妄想したのが、この小説です。

 書きながら、とっても怖い小説だなあと思いました。

 絶対に、こういう運命に巻き込まれたくないなあ・・・(これが本音です)



★「償い」

 この「償い」は、平成22年1月13日に「勝毎」紙上で発表した方です。

 何らかの罪を犯し、その償いをするというのが、ここ最近の僕のテーマで、そのことにまつわる小説をいくつか書いています。

 この小説の、そもそも発想は、殺人事件を起こした親は、どんな心情でその事実を受け止めるのだろうと考えたところにありました。

 よく、テレビのワイドショーあたりでも、殺人を犯した容疑者の親のところに、「息子さんが殺人を犯したことについて、どのように考えますか?」なんて馬鹿げた取材に出かける場面が放送されることがありますが、ああいった時の親の心情は、いかばかりなんだろうと、そんなことを考えながら物語を作っていきました。 

 

★「ニョーケン」

 この話の元ネタは、以前の職場の同僚の体験談からきています。体験談では、採尿管を盗んでしまった友達は、そのまま採尿管の中身を、ゴクンと飲み込んでしまったそうです。

 実は、最初の僕の原稿も、中身を飲み込んでしまう結末で書いたのですが、やはり、いちおうは新聞小説なので、そこまでやるのは下品すぎるかなと考えて、取りやめることにしました。

 主人公と友人の関係だとか、その後のエピソードは、まったくの僕の創作です。

 こんな楽しい結末があったら面白いかなと考えて作りました。この話は、とにかく何も考えないで楽しく読んでもらいたいと思います。



★「火星人の頭痛」

 今から7年ほど前、朝目が覚めると、この小説の主人公とまったく同じように、突然の頭痛に襲われました。それも単なる頭痛だけじゃなくて、左目が眩しくて物が見えにくかったり、首筋から後頭部にかけて苦しかったりと、かなり異常な状況でした。

 カミさんに相談すると、それは脳の異常かもしれないから、MRIで脳の検査を受けたほうがよいと嚇かされ、さっそく脳神経外科を訪れました。でも、結局異常は見つかりませんでした。眼科に行って症状を説明しても、単にドライアイだとしか診断してくれません。マッサージも行きましたが、肩のあたりが凝ってますねと言って、筋肉を揉みほぐして終了です。偏頭痛も、左目も、後頭部も、なんの症状の改善もありません。

 そんなことで、しばらく我慢しながら生活を送っていましたが、たまたま鍼灸院に行って、症状を訴えたところ、初めて僕の納得のいく説明をしてくれました。つまり、肩から後頭部にかけての筋肉が、あまりに凝り固まっていて、神経や血管を圧迫しているために、偏頭痛や目の異常となって症状が現れている。この筋肉のコリをほぐしてやらないと、何も症状は改善していきませんよ、と。

 で、それから1年ほど鍼灸院に通い続けました。治療を受けて、2,3日は症状の改善が見られますが、1週間もたつと、また偏頭痛や目の異常が現れてきます。

 こうなったら自分で普段から、肩、首あたりの筋肉を動かして、凝らないように努力するしかないと悟りました。以来、毎日ダンベルや腕の振り、首の運動などを続けています。

 おかげさまで、最近になってやっと症状が改善して、偏頭痛や目の異常がなくなってきて、普通の状態に戻ってきました。

 それでも、まだ首の凝りは完全にほぐれていません。

 これは、もう持病という状態に近いのかもしれませんね。

 そんなこんなの体験を、面白く脚色して短編小説に仕上げてみました。