珈琲豆焙煎顛末記

皆さんは、どのような経緯で「コーヒー」と出会い、どのような付き合いをしているのでしょうか? 多分、高校時代くらいに喫茶店に出入りするようになってコーヒーと出会い、その後の付き合いが始まったのではないでしょうか?
 かく言う私も、帯広H高校の時に、駅前にあった「葡萄」や「ブルボン」、ステーションデパート2階の「飛鳥」、広小路の「琥珀」、西2条8丁目仲通の「ウィーン」、西2条10丁目仲通の「川」、西2条9丁目の「街」なーんて場所に出入りしながら、少しずつコーヒーの味を覚えていったものです。
 その後、名古屋の大学に進み、一人暮らしを始めたのと同時に、コーヒーミルやドリッパーを購入してきて、自分で豆を挽き、紙フィルターで落としてコーヒーを飲むようになりました。
 さて、月日は一気にドドーンと飛びます。
 今から3年ほど前のことですが、たまたま札幌の地下街を歩いていた時、ススキノ駅近くの「美鈴珈琲店」の店先で、不思議な色をした豆と出会いました。豆の大きさは、大豆よりも一回り小粒くらい、薄い黄緑色をしていて、形は丸型。そんな豆が入った透明なプラスチックのショーケースが、地下街に面して置いてあったのです。
 そのショーケースをよくよく眺めていると、「ブルーマウンテン」だとか「モカ」だとか「マンデリン」、「ブラジル」、「コロンビア」、「キリマンジャロ」なんて表示がしてります。そして、ショーケースの横には、「注文を受け次第、その場でコーヒー豆の焙煎を行います」という看板が吊してありました。そのお店は、店内の電気式高速焙煎機を使い、注文を受けてから2~3分くらいで生豆を焙煎して販売していたのでした。
 心惹かれた私は、試しにブルーマウンテン・ブレンドというのを注文してみました。
 焙煎したてのコーヒー豆というのは、香りが芳醇で気品があり、味もふくよかで透明感があります。今まで帯広市内のコーヒー豆販売店で買ってきた豆とは、格段に味が違います。目からウロコが落ちるような驚きの体験でした。
 それ以後、札幌に出かけた時には、必ず「美鈴珈琲店」に立ち寄って、コーヒー豆を焙煎してもらって、買ってくるようになりました。
  さて、そんなことから充実したコーヒー・ライフを送るようになったのですが、2年程前に、ある人から、芽室町南町にある「珈琲もりた」のコーヒー豆が美味しいと教えられました。さっそく訪れてみると、ここでは、お客さんの注文を受けてから、ガス式焙煎機を使い、20分ほどかけて豆を焙煎してくれました。焙煎を待ってる間、店のご主人と話をしてみると、電気式高速焙煎機なんかよりも、ガスの炎でじっくり焙煎した方が、絶対に美味しいとの話です。確かに、家に帰って飲んでみると、「もりた」で焙煎してもらった豆の方が、味にコクや深みがあります。
 それ以後、「もりた」にコーヒー豆を買いに行くようになったのですが、ちょうど同じ頃、たまたまインターネットをしている時に、「コーヒー豆の自家焙煎」というブログに出会いました。
 世の中には、通販で生豆を購入し、その豆を自分で焙煎しながら、コーヒーライフを楽しんでいるマニアの人たちが、けっこういるのです。更にネットを検索していくと、コーヒーの生豆を販売している店が多数あり、自分で焙煎できる器具も売られたりしていることがわかりました。
 他人ができて、自分ができない訳はないといった妙な「やる気」がムクムクと頭をもたげてきました。というわけで、「よーし、自分でコーヒー豆の焙煎に挑戦してみよう!」と心を決めたのが、今から1年半ほど前の出来事でした。
 「コーヒー豆の焙煎」というのは、いわばプロにしか必要のない専門的な知識・技能であって、身近に詳しい人は誰もいません。もちろん焙煎指導をしてくれるような教室もありません。そこで、やむなくインターネット上のHPを見たり、本を購入しての学習となりました。最初の頃は、焙煎に関する専門的な用語や概念があったりして、説明の文章を読んでいてもチンプンカンプンだったのですが、「読書百遍意自ずから通ず」というように、何度も読み返しているうちに少しずつ焙煎のことが見えてくるようになりました。
 コーヒーというのは、豆の産地(種類)によって味が違ってくるのは皆さんもご存知のことだと思いますが、実は同じ生豆でも、焙煎の仕方、焙煎の時間によって大きく味が違ってくるのです。豆の焙煎は、だいたい100℃くらいから徐々に熱してゆき、最後は230℃くらいで終えるのですが、焙煎時間が短いと酸味が強く出ますし、逆に時間を長くしてやると、苦みの強いコーヒーになります。酸味を残しつつ、苦みのある豆になるようにするには、適当な頃合いで焙煎を止めなくてはなりません。
 さて、機械と生豆を手に入れ、いよいよ焙煎作業に初挑戦です。事前の学習活動の成果が生かせたお陰なのか(?)、20分ほどかかって薄緑色の生豆を、なんとか茶褐色のコーヒー豆に変身させることができました。その豆を、ミルでゴリゴリと挽き、ドリッパーで落として飲んだ時の、なんとも格別な気分よ! 
  さて、私が購入した機械は、1度に200gほどの生豆を焙煎できる小さなものでした。1度焙煎すると、夫婦二人で飲んでも1週間くらいはもちます。
 コーヒー焙煎の専門店になりますと、1kg釜、3kg釜、5kg釜、10kg釜といった大型の機械を使って焙煎します。国内に富士珈機などという専門のメーカーがあって、1台100万円以上の価格で販売しています。
 さて、去年の夏のことでしたが、広小路にある喫茶店「琥珀」が店を閉じるという記事が十勝毎日新聞に載りました。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、「琥珀」は、富士珈機の3kg用の機械を使って自家焙煎していたのです。
 その記事を読んで、私は、すぐに店長さんのところに電話を掛けてみました。お店を閉じるに当たって、使っていた焙煎機を、どのように処分する予定なのか尋ねるためです。すると、何の予定もないという返事。格安で譲っていただけませんかとお願いしたところ、快く店長さんの了解をいただけることになりました。
 さて、「琥珀」が閉店した8月末に、お店から焙煎機を運び出しました。実は、この焙煎機というのが、重さが130キロくらいあります。知り合いの若者3,4人に手伝ってもらって運び出したのですが、「琥珀」は2階にあるうえ、狭い階段を降ろさなくてはなりません。そんな訳で、作業は困難かつ汗だくとなりました。それでも1時間ほどの悪戦苦闘の末、なんとか音更の自宅の車庫に、焙煎機を移設することができました。
 機械内部の掃除をしたり、部品の交換をしたり、煙突の配管をしたりと、焙煎できるようになるまでにひと月ほどかかりました。そして、ドキドキの試運転。機械の操作に迷いつつも、20分ほどかけて美味しい豆を煎ることができました。
  そういう訳で、現在リッチ×2なコーヒーライフを満喫中であります。