ライターズ・ノート(短編小説Ⅱ)

★「めざせ!ハーフ・マラソン」

 43歳の時に、僕は二度目の腸閉塞に襲われます。(このときの体験をもとに短編「ヒョー・ヘー・ヒョク」を書きました。)

 完治するまでに3ヶ月ほどかかり、このときに、僕は自分の健康を維持するためには、自分の体を動かして努力するしか方法はないんだということを心底思い知らされます。

 それで、ジョギングに取り組むことにしました。ゆっくり走ると、とても気持ちがいいし、だんだんと距離を伸ばしていって、10キロを1時間くらいで走れるようになりました。

 それで、どうせ走るんならと、ハーフ・マラソンに出場することにしたんです。

 この小説は、そのときの体験をもとに作りました。実際に、2時間かけて20キロを走ったのですが、本当に最後は死にそうになりました(笑)

 やっぱり、自分のペースで気軽に走るのが自分に合ってるんだと、身にしみて知らされました。

 その後も、ジョギングは続けていたのですが、左の膝を悪くしてしまって、健康ウォーキングに至ってるわけです。

 左膝が回復すれば、またジョギングやりたいんですよね。村上春樹のようには、フルマラソンには出られませんけどね・・・(笑)


★「手のひらを太陽に」

 心の闇に深い病を抱いた人たちについて書くことが、僕の場合多いのですが、今回は、自分の妻が躁鬱病で苦しんでいるという設定です。そういう人の話をラジオか何かで聞いて、書いてみようと思い立ちました。中・長編小説にしようと考えると、そういう人たちのことをしっかりと調べないと書けないのでしょうが、短編小説くらいなら、なんとか書けるだろうという見込みで書き始めました。

 最後に、童謡を歌う場面があって、なんていう曲にしようかなと悩みました。娘が小さいときに、童謡曲集の本を買ってきて、いろいろと歌ってやっていたんですが、いざ小説で使おうと思っても、なかなか適当な曲が思い出せませんでした。で、結局この「手のひらを太陽に」となったわけです。

 いいのがあれば、ほかの曲でも良かったんですが・・・

 


★「泣きべそヒトシ」

 僕が小学生の時、同じクラスに「小児麻痺」という病気にかかったことのある男の子がいました。

 僕が小さかった頃、日本中で、この「小児麻痺」という病気が流行したんですね。で、彼は幼少時代に、その病気に罹患したことがあった訳です。その病気は、快癒しても大きな障害がのこります。彼の場合、言葉が明瞭に喋れない、体の四肢を普通に動かすことができない、などの後遺症が残っていました。

 僕は、そんな彼の障害のことなんて全く気にならなかったので、ごくごく普通に友達として付き合っていました。

 でも、彼と一緒にいると、いろいろと思いがけないトラブルなどが起きたり、また僕の趣味にあった新しい友達が現れたりしてきて、いつしか彼との友人関係は解消されていきました。 

 彼のことを思い出して、ちょっと小説にしてみました。

 

★「進めマンガ少年」

 僕は、小学校から中学校くらいまで、典型的なマンガ少年でした。もちろん、ペンや黒インクを使って、模造紙に本格的なマンガを書いていました。ちゃんとコマ割もして、お話も作ったりしました。

 当時は、「COM」なんてマンガ専門誌があって、手塚治虫が「火の鳥」を、石森章太郎が「ファンタジー・ワールド・ジュン」を、また「ガロ」では、白戸三平が「カムイ伝」を連載している時代でした。

 当時、僕のお気に入りは、永島慎治、つげ義春、林静一、宮谷一彦、なんて人たちでした。

(ちなみに、最近の僕のお気に入りは、井上雄彦さんです。いやあ、彼は天才ですよねえ)

 ところが、僕がマンガを描くことは、あんまり家族内では受け入れられていませんでした。きっと、そんなことやっていたって、勉強の邪魔になるだけだと考えられたんでしょうねえ。まだ、マンガというのが、一段低い子供だましの娯楽くらいにしか思われていない時代だったんです。

 ちなみに、この小説は、田口耕平さんと毛利かずえさんが発行している「ふゆふ」に載せました。


★「北北東に進路を取れ」

 説明する要もないと思いますが、このタイトルは、ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」をもじったものです。東京から北海道を目指して移動していく青年の話なので、「北北東」にしたんですが、東京から北海道って本当に「北北東」なのかどうなのか、自信はありません(笑)。

 さて、タイトルは、ヒッチコックから頂きましたが、物語は、スリルでもサスペンスでもないんです。

 高校時代の恋人のことをふと思い出して、彼女に会うために、鈍行列車を乗り継いでいく男の話です。ところが途中で、財布をなくしたりして、最後はヒッチハイクで札幌を目指します。まあ、現代風にいえば、ロード・ノベルということになるのでしょうか。艱難辛苦の移動物語です。

 この小説、意外と反応が大きくて、「あれはお前の経験なんだろう?」と何人もの人から言われたのですが、実は、これは全くの作り話です。