「カノン」読了しました

中原清一朗の「カノン」読了しました。

前回も書きましたが、この小説は、脳間海馬移植手術によ、58歳の男性の海馬が、32歳の女性の脳に移植される話です。

新しい肉体に移された男の意識が、少しずつ若い女性の肉体に馴染んでいく日々を丁寧に描いています。途中、サスペンスっぽい展開部分もありますが、根底にあるのは、人間のアイデンティティとは何か、老いとは何か、超高齢化社会において、いかに死を迎え入れるかという、そんな話題が中心となっています。

まあ、哲学的な話というよりも、一つの仮説のもとに、科学的に物語を構築していったという印象でしょうか。ですから、仮説部分は突拍子もない話なんですが、ストーリーそのものは、非常に手堅い、現実的な展開となっています。ある種のヒューマニズム小説と言ってもいいかもしれません。ですから、とりたてて、驚くようなどんでん返しもありませんし、幽霊も異界もでてきません(笑)。

社会の中で堅実に暮らしている、ありふれた登場人物しか出てきません。海馬移植を受ける主人公も、そういった人格を付与されていて、物語は手堅く進展していきます。

そういった意味では、やや退屈な小説かもしれませんが、トータルで評価して、じつに「外岡秀俊」らしい、堅実で真面目な小説だなあと思った次第です。