「木野」を読みました

先日、近所の図書館で、文藝春秋2月号に掲載されている、村上春樹の新作短編「木野」を読みました。

 

テーマは、これまで村上春樹が扱ってきたものと、かなり重複している部分があるので、特に目新しいのではありません。でも、彼の文体は、「多﨑」の頃から、以前の冗漫な文体から、余分なものを削り取られた、簡潔で洗練されたものへと変容してきていて、今回の小説も、とても濃密な書き方をしているなと感じました。なんと言えばいいのか、日本の作家らしい風格が出来てたという感じでしょうか。

それと、今回の小説の特質は、スティーブン・キングばりの恐怖小説に仕上がっていて、エンディングのあたりは、背筋がゾクゾクとしてきます。

テーマは、自分を素直な感情を抑圧してきた男が、心に生まれた空白に邪悪なものがやって来るという話です。主要な登場人物で「神田」という男が出てきますが、そのまま「神」の化身と理解するのは短絡的ですが、巫女のように「神界」と意志を通じ合う能力を授かっています。主人公の「木野」も、「野原の木の生える場所に住む者」という意味があるような気がしますが、今回の話は、そこから逃げていってしまいます。

色々と、読み方を深められる小説です。

 

ところで、今回は「女のいない男たち」というシリーズの連作短編小説なのですが、村上春樹は、ずっと以前から、これらの小説群を書きためていたような気がします。

そして、もしかすると「多﨑」も、当初はこの一群の小説で書き始めた、それが「沙羅」の登場で、ついついと長くなっていったのではないのかなと、そんな空想もしてみました。(笑)